「まるで、瀬戸内海に漕ぎ出す船」六甲山の尾根の先端に建つヨドコウ迎賓館を、館長の山元さんはそう表現します。
20世紀最高の建築家のひとり、フランク・ロイド・ライトが設計した個人住宅で日本に現存するのはこのヨドコウ迎賓館だけ。
帝国ホテル設計のために来日していたライトが灘の酒造家として名高い山邑家の別邸として設計し、今から90年前に竣工した歴史ある建物です。
車寄せの外装、エントランスの水盤、応接室と食堂の暖炉、飾り彫刻の施された柱。いずれも栃木県から運ばれた大谷石でできており、重厚感と温かみのある風合いが落ち着いた空間を生み出しています。
応接室では、マホガニー材の飾り棚にその大谷石の柱が組み合わさり、室内と屋外とを隔てない、自然と一体化したライトらしい設計が光ります。
暖炉から真っ直ぐ空に伸びる煙突は、最寄り駅から丘を見上げてもくっきりと目立ち、2本のマストのよう。
90年の時を感じさせない細部のモダンなデザインも見逃せません。一列に並んだ換気窓、周囲の木々に溶け込む色を緑青で表現した飾り銅版、建物と調和した特徴的な家具、風景を切り取ったようなベランダと嵌め殺しの大窓…。
お気に入りを見つけてください。
ライトは訪問客に建物を楽しみ、満足して帰ってもらいたいと考えていました。訪問客を迎える、その考え抜かれた導線は見事。門は北側にあるのに、車寄せと玄関は反対の南側。門から敷地に入ると、木立の間を歩かなければ玄関にたどり着きません。歩きながら建物全体を眺めさせることで、好奇心を高めていくのです。応接室への扉は小さく、扉を抜ければ部屋が一層広く開放的に感じられるという技が使われています。3階バルコニーから2階バルコニーへ通じる階段にも天井の低いアーチがかけられ、それをくぐった先の、芦屋市さらには瀬戸内海までの素晴らしい景色を引き立てます。
竣工90周年の2014年、ヨドコウ迎賓館では夜間見学会も行われました。昼間とは異なる館内の趣と、駅から10分圏内とは思えない夜景を満喫。
ライトの「隠れた名作」を味わう秋。巨匠の演出にまんまとはまってみてください。
瀬戸内Finder フォトライター 堀まどか
国指定重要文化財 ヨドコウ迎賓館
https://www.yodoko-geihinkan.jp
住所/兵庫県芦屋市山手町3-10
アクセス/阪急芦屋川駅から北へ徒歩10分、無料駐車場有
開館日/水・土・日曜・祝日(当イベント期間中は火・金も開館)
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堀 まどか
堀 まどか/フォトライター 兵庫県生まれ、在住。実務翻訳、外国人起業家支援、通訳案内士(英語)、そしてフォトライター。 ネットマーケティングの外資系スタートアップで進行管理や顧客サポートを担当。 2011年から、フジサンケイビジネスアイ掲載の週刊コラム『ITビジネス最前線』を英日翻訳しています。 日常の風景や旅先で出会った人の表情など、心に触れるものを写真におさめています。瀬戸内のスポット、暮らしぶり、季節感、食を私目線で切り取ります。 写真ブログ http://riderv328.tumblr.com ツイッター https://twitter.com/Riderv328
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