淡路島で生まれ、海を挟んで対面に位置する徳島県鳴門市に数多くの作品を遺す増田友也氏。元大学教授で難解な建築論を掲げている氏の作品を、一体どのようにお伝えしたものか…。
頭を悩ませながら迎えた取材当日。出迎えてくださったのは、徳島県の住宅課建築指導室、永峰和佳さん。
永峰さん、徳島は風が強いですね!
「おはようございます。徳島は割といつもこんな感じですよ!私の後ろに見えているのが本日ご紹介する2施設ですー。バタバタバタ(風の音)」
うん、渋い!カッコいい!
ぼくは建築好きだからそそられるけど記事を見てくださる方はどうだろう。内心ドキドキ。
線と面と光と翳(かげ)と。
多くのアーティストがコンサートを行っているという鳴門市文化会館へ。
まず中に入ると、ホワイエの天井が非常に高い。
静謐(せいひつ)で気持ちの良い空間でした。この施設は基本的に貸し切り利用なんだとか。
奥へ進んでみましょう…。
…。
おや、あれは…?
えっ!!!
外観とは裏腹に、こんな場所が!?
「可愛いですね!実は、なかなか機会がなく、私も来たのは初めてで」
壁を平面で撮ってみると、絵になります。
いち、に、さん、よん、ご。
五色の組み合わせと、面積比が何とも絶妙で引き込まれます。熟考に熟考を重ねたうえで、決められた配置だと思うと、少しワクワクしてきませんか?
個人的にはグリーンが好き。
階段の踏面が細くてきれいでした。隙間から視線が遠くに抜けるので、ただでさえ広いホワイエがさらに大きく感じられます。各階段が雁行しているのもポイント。
「本当に細いですね。今の基準で作れますかね!?」
さすがの目の付け所です!
「線と面と光と翳のみが建築の要素」という増田氏の言葉を取材前に見たのを思い出します。たとえ難しい建築論は分からなくても、現地へ行けば『体感』できる。ここって、そんな空間なのかも。
永峰さん、せっかくなので何か一つ、教えてください!
「私もあまり詳しくはないですが…、増田友也氏は『壁面』の構成に美学を持たれていたようです。私の後ろにあるガラス窓もそうですが、壁面に対して凹凸を表現している場所が多くあり、そこに落ちる翳がすごく綺麗ですよね。」
■知る人ぞ知る、色彩ふりそそぐ場所
お隣の鳴門市健康福祉交流センターにやってきました。
今回は本当に勉強不足でした。来るまではどんな建築物なのかよく分かっていませんでしたが、こちらも最高です。
階段室の最上部にそれはありました。真っ赤に塗られた天窓。
経年変化による味わいさえ美しく感じられます。
遠くから子どもたちの遊ぶ声が聞こえてきます。
2017年の施設再編を機に、老若男女問わず、これからもっと多くの人に愛される場所になるのかも。
「今回は驚きの連続でしたね。途中から見どころを探すのが楽しくなっちゃって。きれいな色の光に包まれたり、キリッとした空間に包まれたり、本当に不思議な場所です。増田友也氏がどんなことを考えて設計をしていたのか、もっと調べてみたくなりました」
ホールや外観、中庭、屋上など、全然ご紹介しきれませんでしたが、今回はここまでとします。自分の不勉強が露呈したわけですが、発見の多い楽しい旅になりました。
さて、川べりをのんびり歩いて、また電車に揺られて帰ろっと。
●増田友也(1914-1981)
淡路島に生まれ、京都帝国大学工学部建築科を経て満州炭鉱工業会社に就職。元京都大学工学部教授。「空間論」「風景論」「存在論」の哲学的思想に基づく独自の建築論を持つ。
○鳴門市文化会館
1982年開館。1998年公共建築百選に選定。ホールは徳島県内屈指の舞台設備を誇り、多くのアーティストがコンサートを催す。
所在地/徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜24番地7
電話/088-685-7088
FAX/088-685-6838
休館日/毎週火曜日、12月29日~翌年1月3日
受付時間/午前8時30分~夕方5時(休館日は除く)
※施設利用には申込予約・利用料金が必要です。
http://narutoshi-bunkakaikan.jp/
○鳴門市健康福祉交流センター
鳴門市老人福祉センター(1977年-)と、隣接する市勤労青少年ホーム(1975年-)の両施設を一体化した市健康福祉交流センターとして2017年にリニューアル。
所在地/徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜24番地2
休館日/12月29日~翌年1月3日
■瀬戸内の近現代建築の情報はこちらもご覧下さい。
兵庫県 ひょうごツーリズムガイド
岡山県 おかやまの歴史的土木・近現代建築資産
広島県 ひろしまたてものがたり
山口県 おいでませ山口へ 観光スポット-名所・史跡-近代的建造物
徳島県 徳島県観光情報サイト 阿波ナビ
香川県 うどん県旅ネット_アート_建築・建造物
愛媛県 愛媛県公式観光サイト いよ観ネット
瀬戸内Finderフォトライター/乙倉慎司
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この記事を取材したフォトライター
乙倉 慎司/hiroe
乙倉慎司 岡山に18年、山口に6年暮らし、現在は広島の離島に仮移住中。建築・デザインの仕事をしています。日々、点々と移ろいながら、そこで見つけた素敵なひと・こと・ものを皆さんと共有していきたいです。 hiroe 福岡で環境分析研究員として働いた後、ロンドンへ留学。ヨーロッパを旅した後に住み着いたのは、瀬戸内海の美しい自然に囲まれた大崎上島でした。 気の向くままに島から島を渡り歩き、新参者ならではの視点で、瀬戸内特有の暮らし、文化、景色を伝えます。
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