住宅地にひっそりと佇む雑貨店
生きていくということは、毎日を積み重ねていくことであり、そこには『衣食住』が必要となります。
自分の家がある土地で過ごす毎日が『日常』ならば、旅に出る行為は『非日常』なのかもしれません。
『非日常』の旅先で出会ったお店で見つけたものが『日常』を豊かにしてくれることもあるでしょう。
徳島市の閑静な住宅地の一角に、さまざまな手仕事の素晴らしさに触れることができるお店があります。
藍染めの美しい暖簾と控えめな看板に気がつかなければ、そのまま見過ごしてしまうかもしれません。
もともとは建具屋さんの倉庫だったというこの建物が、知る人ぞ知る雑貨店『遠近(をちこち)』です。
どことなくゆかしい響きですが『そこかしこ、あちらこちら、未来と現在』を表す古い言葉なのだそう。
店名の意味を聞くだけで、どのようなものたちと出会うことができるのか、期待に胸が高まりますね。
二人の感性が響き合う『遠近』
店主は2011年から徳島市内で民藝の器と生活雑貨のお店『東雲 SINONOME』を営んでいた東尾厚志さん。
『旅を感じる雑貨店 Letenka』を営んでいた奥さまの智子さんと一緒に2016年から『遠近』をスタート。
それまで別々のアイテムを販売していた二人が、あらためて同じ空間にお店をつくったというわけです。
ここ『遠近』に集められているのは、ジャンルは違えど、そんな二人の心の琴線に触れたものばかり。
たとえば、徳島の『大谷焼』や島根の『出西窯』、沖縄の『やちむん』といった焼き物の器をはじめ、
『ヨシダ手工業デザイン室』の栓抜きやピーラー、『RHYTHMOS』の革財布『Zip』などが並んでいます。
手ぬぐいやタオル、洋服やバッグ…、どのアイテムもデザインとクオリティーのレベルは折り紙つき。
チェコやグアテマラなど、海外から選び抜かれた個性的な品物も、空間に違和感なく溶け込んでいます。
東尾さんのセレクト基準は、自分自身が使いたいと感じるもの、できるだけ長く使うことができるもの。
日常の生活道具の中に美しさを見出すという考え方は、柳宗悦らが唱えた『民藝』がベースにあります。
「若い頃から焼き物が好きで、いろいろ勉強していくうちに島根の『出西窯』の存在を知ったんです」
この柳宗悦の思想に共鳴した人々が築いた『出西窯』の器は、もちろん『遠近』で買うことができます。
郷土の土や釉を大切にした職人たちの手仕事は、東尾さんがお店を出すきっかけの一つにもなったとか。
最初のお店『東雲 SINONOME』を経て生まれた『遠近』は、随所に東尾さんの美意識が反映されています。
たとえば、目を奪われる鮮やかなインディゴ・ブルーの壁は、藍で染めた手漉き和紙でつくられたもの。
「原料である楮の皮を剥き、自分の手で和紙を漉くところから始めました」と東尾さんは振り返ります。
友人や知人、お客さんなどの力を借りながら、約200枚もの手漉き和紙を染め上げ、貼っていったそう。
それは「地域に根ざした手仕事のみを取り扱う」という東尾さんの強い信念の旗印のようにも思えます。
手仕事の美しさを伝えるために
2017年の12月から『遠近』で始まった『喫茶をちこち』は、今までになかった新しい取り組みの一つ。
店内の一角を喫茶スペースに、東尾さんが淹れるコーヒーと智子さんがつくるお菓子を提供しています。
東尾さんがデザインした大テーブルを中心に、2人掛けの小テーブルが3組という心地いい空間です。
「実際に販売している器でお出ししているので、暮らしに取り入れたときのイメージの参考になれば…」
日常の生活道具である以上、どの器も使ってもらえなければ意味がないと東尾さんたちは考えています。
コーヒーは徳島の誇る名店『TOKUSHIMA COFFEE WORKS』で焙煎されたオリジナルのブレンドを用意。
中深煎の『民藝ブレンド』と深煎の『をちこちブレンド』の二種類から好きな方を選ぶことができます。
智子さん手づくりのスイーツは、近所にある養鶏所の新鮮な卵を使った『をちこちプリン』をはじめ、
徳島の郷土菓子『ほたようかん』といったレギュラーのほか、『チョコテリーヌ』なども登場するとか。
詳しくは足を運んだときに、カウンターの上にある小さな黒板で『今日のおやつ』を確認してください。
ものづくりに携わる人々を招いたワークショップや作品の展示、受注会なども頻繁に開催する東尾さん。
その行動の根底には「地域に根ざした手仕事の素晴らしさを広く知ってほしい」という願いがあります。
2017年には、自身の故郷である神山町にオープンした『かま屋』で使われる器のディレクションも担当。
『大谷焼』の窯元の一つ『森陶器』でつくられたそれらの器は、県内外の人々から好評を博しています。
「自分が好きなもの、やりたいことを突き詰めると『メイドインローカル』なんだと気がつきました」
東尾さん夫妻の提唱する美の世界を楽しむことができる雑貨店『遠近』。徳島を旅するときにはぜひ。
遠近(をちこち)
所在地/徳島県徳島市上八万町樋口266-1
営業時間/11:00~18:00
定休日/水曜日・木曜日・年末年始
電話/088-612-8800
https://www.facebook.com/store.ochicochi/
瀬戸内Finderフォトライター 重藤貴志
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この記事を取材したフォトライター
重藤 貴志
徳島で暮らしているインタヴュアー/ライター/コピーライターです。屋号は“Signature”。新聞広告をはじめ、書籍や雑誌、ウェブサイトなど、幅広い媒体で仕事をしています。生まれ育ちは東京ですが、縁あって徳島に移り住みました。県外出身者の視点から見た徳島の魅力を中心に、瀬戸内のさまざまな情報を紹介していきます。 Twitter https://twitter.com/Siqoqtaq
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by 瀬戸内Finder 編集部