『汚れつちまつた悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れつちまつた悲しみに/今日も風さへ吹きすぎる……』
誰もが教科書などで一度は目にしたことのある一節ではないでしょうか。この詩の作者である中原中也は、明治40年、山口市湯田温泉に生まれました。
詩人、中原中也の生まれた場所
中也の生家跡の一部に建つ中原中也記念館。今も敷地内には中也が幼少の頃からあるカイヅカイブキの大木が枝を伸ばしています。
記念館入り口へ向かう途中には、中也の作品が抜粋展示されています。
『ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん』
初めて目にする、なんとも不思議な文字の響き。でも眺めているうちに、このサーカスの幻想的な情景が自然に浮かびあがってくるよう。中也の詩にはこのような『オノマトペ』(擬音語)が多く使われています。
中原中也、その人生
最初の展示室では、中也の生涯と詩人としての歴史が紹介されています。30歳という若さで夭折した中也。短い人生の中で『山羊の歌』と没後半年で出版された『在りし日の歌』の二冊の詩集を残しました。
歩くことと書くことのつながり
奥に進むと、一年ごとに内容の入れ替わるテーマ展示が行われています。取材時は『中原中也の散歩生活』が開催されていました(2019年2月17日まで)。中也は街中をあてもなく歩きながら、思索にふけり、情景を焼き付け、作品に投影していったといいます。
館内には中也直筆の原稿が多数展示されています。この詩の中盤にある『足 足 足足 足…』まるで足跡のように見えてきませんか。既成概念を否定する芸術運動、ダダイズムを信奉する中也の難解な詩の一つですが、このリズミカルな文字の並びに誰もが目を奪われます。
中原中也のもうひとつの顔
フランスの詩人であるアルチュール・ランボー。外を歩きながら世界を体感し創作に生かした彼の姿勢に、中也も影響を受けていたのではないかと言われています。中也は自身の詩作の他に、フランス文学の翻訳にも力を注いでいました。
耳から入る中原中也のことば
ここでちょっと休憩。展示室の一角には、詩の朗読のほか中也の詩にメロディーをつけた楽曲を試聴できるスペースがあります。目で文字を追いながら、ゆったりと味わう詩の楽しみ方もいいですが、耳から聴く詩もまた違った発見があり、興味深いですよ。中也自身も詩の朗読を好んでいたそう。
二階では、年数回内容の入れ替わる企画展が開催されています。いつ来ても中也の詩が生み出す新たな一面に出会えますよ。取材時は、中也からインスピレーションを受けた作家達の現代アートが展示されていました。中也の詩に対するそれぞれの捉え方が個々の作品に反映されていて、自分とは違う目線に興味津々。
こちらも今回の企画展に合わせて製作された現代アートの一部です。中也の未発表の詩の一節から取り出された奇抜な文字の羅列に、目が釘付け。今にも飛び出して自由に動き始めそうな『アババババ』、中也の詩には時代が変わっても、全く古さを感じさせない斬新な驚きが詰まっています。
瀬戸内Finderフォトライター 武井奈々
【おいでませ!山口】
中原中也記念館
文学史上に大きな足跡を残した近代詩人、中原中也の記念館。中也の生家跡の一部に建てられ、直筆の原稿を始め、詩作に関する貴重な資料が多数展示されています。
住所/山口県山口市湯田温泉1-11-21
最寄駅/JR山口線、湯田温泉駅より徒歩10分
湯田温泉駅へのアクセス
開館時間/9:00~18:00、11-4月は~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日/月曜日(祝日の場合翌日)、毎月最終火曜日、12/29~1/3、その他臨時休館あり
入館料/一般330円 学生220円 18歳以下は無料
電話/083-932-6430
https://chuyakan.jp
この記事が役に立ったらいいね!してね
関連キーワード
関連記事
この記事を取材したフォトライター
武井 奈々
Hashtags
旬のキーワード