#丹下健三|すべては瀬戸内からはじまった。焼け野原にまちを描いた一人の青年の夢/(広島県広島市・香川県高松市)

1945年8月。終戦直前。
今治・広島で少年期を過ごした若き建築家は、父の危篤の知らせを受け実家のある今治への帰路を急いでいた。移動中、広島が原爆により焦土と化したことを耳にする。到着時、父は既に亡くなっており、原爆投下と同日に今治を襲った空襲は母の命も奪っていた。東京へ戻った青年はその翌年、焼け野原となった広島に戻り、新たなまちを描くことを決意したのだった。

数々の建築作品を遺したトップランナー・丹下健三氏の建築家人生の礎が『瀬戸内』であることは、知らない方も多いのではないでしょうか。瀬戸内の戦後発展の基盤をつくった2つの建築を巡りながら、当時に思いを馳せてみましょう。

平和を生み出す工場(2019年リニューアル)

いまや世界中の人々が訪れる広島平和記念資料館と平和記念公園。
観光客の強い味方、赤いレンタサイクル『ぴーすくる』でさっそうと登場したのは、#村野藤吾の記事にもご協力いただいた南川智子さん。

「この近くに昔住んでいたのでとても思い出深いエリアです。村野藤吾氏の世界平和記念聖堂に続き、資料館もちょうど工事中ですね」

1955年に竣工した資料館。ピロティの上に横長の空間を構成し、縦ルーバー(ブリーズソレイユ)を象徴的に設えてあります。

「毎年、夏になるとこのピロティを含め、公園一帯が訪れた人であふれます。建設計画中は反対の声も多かったそうですが、丹下さんは図面を引きながら、たくさんの人が祈るためにこの公園に集まる景色が見えていたんですね」

この場所を丹下氏は『平和を生み出す工場』と呼びました。平和は祈るものではなく創り出すもの。そんな平和の工場は今、今後も大切に使っていくために改修工事中です(2019年リニューアルオープン済み)。

まっすぐな軸に想いをのせて

原爆ドームの脇に建つ『おりづるタワー』の屋上展望台から見ると、広島平和記念資料館・平和記念公園・原爆ドームが一直線上に配置されており、ひとつの『軸』に従って構成されていることがよく分かります。
※広島平和記念公園から見た原爆ドームはこちら

終戦直後、丹下氏は広島へ戻ることを決意し、都市復興計画にそのすべてを捧げました。
東京では原爆による人体への影響などが流布される中、食べる物もままならない過酷な環境下で、日夜、焼け野原に都市を描き続けます。

「丹下さんは高校時代を広島で過ごし、そこで建築に出会っていて。なんというか、想いの強さを感じますよね…。それを体現するように、建築がとても力強い」

一時は撤去も騒がれていた原爆ドームは、今日も静かに川辺に佇んでいます。
今を生きる私たちに、この一本の『軸』は目線を導き、問いを投げかけてくれます。

まちの種となった庁舎

広島平和記念資料館竣工から3年後、香川県高松市にも、丹下の種が芽を出しました。

香川県庁舎(現東館)も、市街地の多くが焦土と化した場所に建てられた庁舎。建築業界ではとっても有名で、日々、見学者が後を絶ちません。写真は庁舎1階の『市民に開かれたロビー』。一緒に来てくれたのは香川出身の建築学生・渡部桃子さん。

「この壁は、香川県出身の猪熊弦一郎による陶板壁画『和敬清寂』。周りにある家具は丹下研究室で設計したものです。フォルムが可愛い!太陽光がしっかり入ってきて気持ちの良い空間です」

今でこそ周りに多くのビルが立ち並んでいますが、その当時は文字通りこの庁舎が高松の中心でした。復興の象徴であり、希望であり、最初の種。

なんと、こちらの香川県庁舎も改修工事を行っております。注目すべきは徹底された工事内容。舗装に使われている石がバラバラにならないように丁寧に分別しながらの作業。これからも大切にされるんだろうなあ。

戦後70余年、多くのモダニズム建築が耐震補強や建て替え時期を迎えています。これを機に建築家が成した仕事を振り返ってみるとたくさんの学びがありました。何より、私自身、丹下氏の青年期のエピソードに触れる度に心が奮い立たされました!

建築に込められた想いが、建物の配置や外観、内観、ディティールに今なお息づいています。少しだけ足を止めて、建物を見つめてみると新しい魅力に気づくかもしれません。


●丹下健三(1913-2005年)
東京帝国大学工学部建築科、前川國男建築事務所、東京帝国大学大学院を経て、同大学院建築科助教授に就任し、丹下研究室を設立。多くの都市計画案を発表。受賞多数。

平和記念公園
1955年竣工。
住所/広島市中区中島町1及び大手町1-10
入園料/無料
休園日/無休
開園時間/常時
http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1483699383190/index.html

広島平和記念資料館
1955年、広島平和会館原爆記念陳列館(現・広島平和記念資料館本館(旧・西館))として竣工。2006年、国の重要文化財に指定。また、広島平和記念資料館東館にあたる場所には1955年に広島平和記念館が立てられ、1994年に建て替えが行われている。
住所/広島県広島市中区中島町1-2
電話/082-241-4004(総合案内)
開館時間/
3月~7月/8:30~18:00
8月/8:30~19:00(8月5日、6日は20:00まで)
9月~11月/8:30~18:00
12月~2月/8:30~17:00
※入館は閉館時刻の30分前まで
休館日/12月30日・12月31日
※情報資料室は12月29日から1月1日まで閉室
観覧料/一般200円(30人以上の場合1人160円) 高校生100円(20人以上の場合無料) 中学生以下無料
※観覧料が免除または割引となる方
・未就学児、小学生、中学生は無料
・土曜日(ただし、祝日、春・夏・冬休み期間は除く)は、高校生は無料
・原爆障害者章、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、戦傷病者手帳をお持ちの方が原爆障害者章等を提示した場合、その介護者の方も合わせて無料
・65歳以上であることが確認できる公的証明書を提示した場合、100円で入館可
・小中高校生が平和学習で来館する場合、生徒とその引率者は無料(事前の申請が必要)
・地方公共団体が主催する平和学習で来館する場合、参加者は無料(事前の申請が必要)
http://hpmmuseum.jp/

香川県庁舎
現香川県庁舎東館。モダニズム建築として高い評価を受ける。
住所/香川県高松市番町四丁目1番10号
電話/087-831-1111
開庁時間/8:30~17:15
定休日/土日祝日・年末年始
http://www.pref.kagawa.lg.jp/zaisankeiei/higashikan/

■瀬戸内の近現代建築の情報はこちらもご覧ください
兵庫県 ひょうごツーリズムガイド
岡山県 おかやまの歴史的土木・近現代建築資産
広島県 ひろしまたてものがたり
山口県 おいでませ山口へ 観光スポット-名所・史跡-近代的建造物
徳島県 徳島県観光情報サイト 阿波ナビ
香川県 うどん県旅ネット_アート_建築・建造物
愛媛県 愛媛県公式観光サイト いよ観ネット

瀬戸内Finderフォトライター/乙倉慎司

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乙倉 慎司/hiroe

乙倉 慎司/hiroe

乙倉慎司 岡山に18年、山口に6年暮らし、現在は広島の離島に仮移住中。建築・デザインの仕事をしています。日々、点々と移ろいながら、そこで見つけた素敵なひと・こと・ものを皆さんと共有していきたいです。 hiroe 福岡で環境分析研究員として働いた後、ロンドンへ留学。ヨーロッパを旅した後に住み着いたのは、瀬戸内海の美しい自然に囲まれた大崎上島でした。 気の向くままに島から島を渡り歩き、新参者ならではの視点で、瀬戸内特有の暮らし、文化、景色を伝えます。

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