たった一杯のカクテルを飲むために、船で海を渡り、島に泊まる。
そんな旅も、たまにはいいかも。
東京から来たバーテンダー
一年くらい前からでしょうか。
大崎上島のあちこちで、とあるバーテンダーの話を耳にするようになりました。その噂をたどっていくと、どうやらその方が居るのは島のホテル『清風館』。
「何にいたしましょう」
カウンターの向こうから落ち着いた声。オリジナルカクテルを注文すると、白いシャツに黒のスーツを着たマスターがシェイカーを振る音が響きます。
この方こそ、噂のバーテンダー・田村さん。東京生まれ東京育ちで、帝国ホテルに41年間勤め上げ、時の首相をはじめ各業界の要人たちにお酒を提供し、その舌を唸らせ続けた超一流の人。退職を機に自然豊かな場所でゆっくりと過ごしたくて大崎上島へ移住。ひょんなことから清風館のバーでマスターをすることになったんだとか。
「私はね、ホテルの庭の草むしりでもやれたらいいなと思ってたんだけど、ほら、社長にね、是非うちでバーをやってくれってお願いされちゃったもんだから」
照れ笑いをしながら、目の前で注がれていくカクテル。
そのどれもが色合いが美しく、おいしい…。
『島の夜明け』、『ブルーモーメント』、『フルムーン大崎上島』。島から見る景色からインスピレーションを受けて生まれた、ここでしか飲めない地域のオリジナルカクテルがメニューに並びます。
いつしか島のバーテンダーに
この逸材を島のみんなが放っておくわけがありませんよね。
そんなわけで、開かれているイベントが『Bar115』。島の最高のロケーションで田村さんのカクテルを飲みたい!という思いから実現したとってもシンプルなイベント。今後も不定期開催予定です。
この日は、115の島が見える神峰山(かんのみね)の山頂で1日限りのバーが開催されました。手づくりのバーカウンターは島にあった足場板と運搬用のパレットで構成されています。
いつにも増して天気がいい!遠くに見えるのは四国山地です。
いつもの蝶ネクタイは外して、麦わら帽子スタイル。とってもお似合いです。
「『老いては子に従え』ですよ、みなさんにこうして必要としてもらえることが心から嬉しいです。私にはこれしかできませんから」
田村さんの一番の魅力は、その粋なお人柄。それでいて自身のキャリアなどおくびにも出さず、物腰が柔らかい。ファンが多いのも頷けます。
提供されたカクテルは2種類。どちらも今回のバーイベントのためのオリジナルメニュー。
『115』は大崎上島らしい透き通った柑橘色。『姫』はクランベリーなどを使った甘酸っぱくて、カワイイ一杯。
どうしても飲みたいという方は、清風館でこっそり注文してみてくださいね。
東京から来たバーテンダーは、いつしか島のバーテンダーとして愛される存在になりました。自然豊かな環境で、日夜新しいカクテルづくりに精を出しています。最近だと地域の日本酒や酒粕を使ったカクテルを作って、コンテストで受賞。島に移住してからも、伝説は続いています。
田村さんの一杯のカクテルを飲みに、ようこそ大崎上島へ。
BAR SAPPHIRE(きのえ温泉 ホテル清風館内)
住所/広島県豊田郡大崎上島町沖浦1900
営業時間/19:00〜23:00
定休日/不定休(あらかじめご確認ください)
電話/0846-62-0555
http://hotel-seifukan.co.jp/
瀬戸内Finderフォトライター 乙倉慎司
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この記事を取材したフォトライター
乙倉 慎司/hiroe
乙倉慎司 岡山に18年、山口に6年暮らし、現在は広島の離島に仮移住中。建築・デザインの仕事をしています。日々、点々と移ろいながら、そこで見つけた素敵なひと・こと・ものを皆さんと共有していきたいです。 hiroe 福岡で環境分析研究員として働いた後、ロンドンへ留学。ヨーロッパを旅した後に住み着いたのは、瀬戸内海の美しい自然に囲まれた大崎上島でした。 気の向くままに島から島を渡り歩き、新参者ならではの視点で、瀬戸内特有の暮らし、文化、景色を伝えます。
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