「来週末、四ツ手(よつで)しようや」
地元の幼馴染みからいつもの連絡。
小さい頃から慣れ親しんでいたこの場所の価値に気づいたのは大人になってからでした。
漁場から憩いの場へ
これが『四ツ手小屋』です。場所は、岡山市の児島湾北側に位置する堤防沿い。
海に張り出すように建てられた小屋の前面に『四つ手網』が取り付けてあります。
ここに夕方くらいから集まって、獲れたての海鮮を肴に、夜遅く(翌朝)まで食べたり飲んだりすることを『四ツ手する』と言います。
これは2000年の写真(政田民俗資料館の展示写真を撮影)。
もともと、この地域で行われていた陸っぱりの四つ手網漁。
待ち時間が長いその漁法の特性から、屋根がかかり、小さな部屋になり、徐々に進化して現在の形になったと言われています。
かつてはこの写真のように1.8kmほどの堤防沿いに70棟近くありましたが、漁獲量の減少や災害で、現在では20数棟に減少しました。
室内は土間と畳間の構成が一般的。窓から見える景色、そよ風、波の音、とっても心地よく、昔から地域の憩いの場所です。
小屋ごとにかなり多様性に富んでおり、堤防の上なのにテレビやお風呂まで設えてある四ツ手もあるんですよ。
どうやって過ごすの?
さて、こうしてご紹介しているのには訳があって、実はこの小屋、誰でも借りることができるんです。『貸し四ツ手』と呼ばれ、17棟ほどの四ツ手をそれぞれの漁師さんが管理されていて、電話で予約するだけ。
まるっと一晩借りて、一棟10,000円くらい。複数人で利用するのでかなり安いと思います…!
網を降ろして30分~1時間、電動ウインチで上げていくと中で魚がピチピチ。長いタモを使ってすくい上げます。あとは好きに調理して食べるだけ。
「日によるけど、ベイカ(小さいイカ)、エビ、チヌ、ママカリ、セイゴ、太刀魚、ハゼ、うなぎ、穴子、ヒラメ、マゴチとかが獲れる。昔はぎょうさん獲れよったんじゃけどなあ。それでもお客さんいろいろ持ち込んでバーベキューしたり、鍋したりで楽しゅう過ごしてくれようるわ」
と、今回取材にご協力いただいた井上さんと近藤さん。
この日は、お客さんと漁師さんが混ざって、昼からバーベキューをしていました(※ここも堤防沿い)。
小屋によっては、誰かが置いて帰っていった調味料なんかがたくさんあり、次に来た人が当たり前のようにシェア。それが自然に行われている文化、大好きです。
前日ちょうどうなぎが獲れたからと、お裾分けをいただきました!
言うまでもないですがめちゃウマです。
大きな魚がかかったら調理してくれたり、前日獲れたものをお裾分けしてくれたり、なんだかあったかい場所。
今日も陽が暮れ、夜が明けて。
夜になると、四つ手網の先端に付けた魚を寄せるための灯りが連なって素敵。
『横樋(よこひ)の漁火』と呼ばれ、穏やかな水面にたゆたう風景はちょっとだけ有名でした。
生業に深く結びついたローカルなコミュニティとツーリズムの曖昧さが四ツ手の魅力。
お魚が獲れる日も獲れない日も、夜深くまで時間を忘れて楽しむ。
そしてまた夜が明けて、この朝日を眺める時間は、けっこう幸せなんじゃないかと思うわけです。
四ツ手小屋
貸し四ツ手の小屋は漁師さんが各個人で管理しています。ご連絡の時間帯など何卒ご配慮ください。また、漁協へのお問い合わせはお控えください。
住所/岡山県岡山市東区豊田~九蟠(児島湾堤防沿い)
休業日/不定休(ご予約時にご確認ください)
貸し四ツ手料/10,000円前後(小屋により異なります)
事前予約が必要です。下記サイトよりご確認ください。
https://yotudegoya.web.fc2.com
瀬戸内Finderフォトライター 乙倉慎司
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この記事を取材したフォトライター
乙倉 慎司/hiroe
乙倉慎司 岡山に18年、山口に6年暮らし、現在は広島の離島に仮移住中。建築・デザインの仕事をしています。日々、点々と移ろいながら、そこで見つけた素敵なひと・こと・ものを皆さんと共有していきたいです。 hiroe 福岡で環境分析研究員として働いた後、ロンドンへ留学。ヨーロッパを旅した後に住み着いたのは、瀬戸内海の美しい自然に囲まれた大崎上島でした。 気の向くままに島から島を渡り歩き、新参者ならではの視点で、瀬戸内特有の暮らし、文化、景色を伝えます。
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