ジョージ ナカシマ。
みなさんはこの世界的に有名な家具デザイナーの名前を知っているでしょうか?
ジョージナカシマ記念館
ここは、彼の作品や生き方、考え方、哲学に触れることができる『ジョージナカシマ記念館』。香川県高松市の東に位置する牟礼町にあります。
こちらは、長年パートナーとして共に家具製作をしてきた『桜製作所』が2008年に設立した記念館。
彼の作品は世界的に有名で、今でも正規品を製作しているのはアメリカ・ペンシルヴェニア州ニューホープの工房と、この香川県高松市にある桜製作所の二箇所のみ。
日本で唯一の場所ということもあり、この日も東京から来たお客さんが開館と同時に入館されていました。
館内の雰囲気はまるで家具の美術館。大体65点ほどの数の作品が展示されているそう。
凛とした面持ちで佇む椅子やテーブル。見ているこちらまで姿勢を正される気持ちになります。
館内では、スタッフの方の案内を受けることも可能。
大体30~40分ほどの説明で、ジョージ ナカシマ自身のことのみならず、家具がいかに人間にとって大切なものであるのかを知ることができます。
案内をしてくれた豊田さんにジョージ ナカシマのものづくりに対する哲学について訊いてみると、「『木の心を読む』ということがジョージ ナカシマの熱い想いです。水分を含んだ空気を吸ったり吐いたりしている時、木は微妙に動いています。木は生きているんです。そんな木の第二の人生を家具として大事に使い可愛がってもらえるように、機能性、デザイン性、そしてその木自体の個性を生かした上でしっかりしたものを仕上げる、ということが彼の精神でした」と教えてくれました。
木と生きた人・ジョージ ナカシマ
さて、ジョージ ナカシマとは一体どういった人物だったのでしょう。
彼は日系二世としてアメリカに生まれ、ボーイスカウトをきっかけに木に興味を抱きます。
大学での森林学・建築学の勉強を経て建築の道を進み、世界を舞台に建築設計の仕事に携わっていました。
そのうち建築に失望したナカシマは、すべてを自分で統括できる家具製作の世界に踏み込むことになります。
第二次世界大戦中には、日系人のため収容所に収監されることもありましたが、その中で日系人大工に出会い木工の基礎技術を学びました。
現在彼の作品はアメリカのスミソニアン博物館、ボストン美術館や日本の東京国立近代美術館などで目にすることができます。
では、そんな彼と香川にどういった縁があったのか?
それは、『デザイン知事』とも呼ばれていた当時の香川県知事・金子正則氏の存在を知る必要があります。
金子氏はデザインの文化を非常に重んじており、高度成長期の最中「経済の成長も大切だが、そこに文化もなければ人の真の幸せはない」という豊かな感覚を持っていた人。
彼は金子氏の高校時代の先輩である画家・猪熊弦一郎氏に相談し、県庁舎設計を建築家・丹下健三氏に依頼。次に、彫刻家・流政之氏がその県庁舎を取材に来県し……と輪がどんどん広がり、1964年流氏の勧めによりジョージ ナカシマが香川に初めて足を踏み入れることになったのだとか。
そして、当時流氏の提唱した讃岐民具連のメンバーで、県の仕事にも携わっていた桜製作所の技術に感動し手を結んだことが、ジョージ・ナカシマと桜製作所の長いお付き合いの始まり。
ジョージ ナカシマと香川の出会いの陰には、金子氏をはじめ、多くの偉人の繋がりが隠されていたんですね。
こちらは1960年に発表された、ジョージ ナカシマの代表作品『コノイドチェア』。
この椅子の特徴は、一目見て分かる二本の足。
実際に座ってみると、私が普段座っている椅子とは全然違う! 背もたれのアールが背中を包み込むようで、木なのに固さをまるで感じないのです。不思議!
発売当初は構造が不安定だと批判を受けましたが、実際の破損率はナカシマの椅子の中で一番低いのだとか。
『コノイド(Conoid)』とは、円錐、あるいは円錐曲体を意味する英語で、ナカシマの仕事場であるコノイドスタジオの屋根に使われている形状です。コノイドチェアはそのスタジオに因んで名付けられたのだそう。
建築の構造を取り入れたコノイドチェアは、ナカシマにとって家具は「小さいけれど建築である」という考えが特に表れた椅子だということが理解できますよね。
『契り』を使ったブックマッチのテーブル
『契り』とは、釘を使わずに板と板を接合させる際、釘の代わりに裏に入れる蝶々の形をした木片のこと。
1本の木の、隣り合った2枚の板を本を開くようにして契りで繋いだブックマッチの板。それをテーブルの天板に使ったのは、ナカシマの斬新なデザインだったそうです。
先述したように、桜製作所ではジョージ ナカシマの制作ライセンスを持ち、今でも彼の作品として素晴らしい技術の家具を作り続けています。
1階部分では、桜製作所オリジナルの家具に触れることもできます。実際に触ったり座ったりして、長年継承されてきた確かな職人の技を体感してみましょう。
こちらでは、アメリカで制作されたドキュメンタリービデオも視聴可能ですよ。
エントランスの近くにはギャラリーショップが併設。
こちらは人気商品のひとつ、『ペンボックス(6,800円・税抜)』。
桜製作所の職人さんがブラックウォールナットの木をくり抜いて製作したもので、見事な曲線のフォルムが木のぬくもりを演出してくれているよう。
蓋を開けると筆記用具が置けるトレイにもなり、プレゼントとしても最適なのだとか。
この他にも、市松箱、ペン立てやネームカードボックスなどが購入可能ですよ。
自然や木を心から敬い愛していたジョージ ナカシマだからこそできる『木との対話』を、数々の作品を通して少し覗かせてもらった気がしました。
そして更に今回一層触れることができたのは、桜製作所を始め香川の職人さんの高い技術や、それを取り巻く文化・芸術に対する土壌、理解そして懐の深さの歴史でした。
工業製品ではない、職人が一つひとつ仕上げる作品はまさに必見もの。
あなたも、写真だけでは伝わらない技術の高さや本物の魅力に出会いにきてはどうでしょうか。今までに体験したことがない出会いが待っているかもしれませんよ。
瀬戸内Finderフォトライター 山田 芽実
ジョージナカシマ 記念館
住所/香川県高松市牟礼町大町1132-1
電話/087-870-1020
営業時間/10:00~17:00(入場は16:30まで)
入場料/一般550円 小中学生220円(20名〜団体割引)
定休日/日曜・祝祭日・年末年始・夏季休暇
駐車場/有
https://www.sakurashop.co.jp/memorial_hall
最寄り駅/琴電志度線塩屋駅・琴電志度線八栗新道駅・JR高徳線讃岐牟礼駅
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この記事を取材したフォトライター
山田 芽実
香川生まれ。 高校卒業後、米国・京都・香川・東ティモールを経てまた香川在住。 地元のすてきさを改めて発見中。 絵を描いたり写真を撮ったりしています。
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