小津安二郎のロケ地として
さまざまな文人や映画人に愛されてきた港町、尾道。名匠・小津安二郎監督も映画『東京物語』のロケ地に尾道を選び滞在しました。
そのロケ地のひとつ、国宝・真言宗泉涌寺派大本山 浄土寺から見えるのは、向島との間を流れる尾道水道と街を駆け抜ける山陽本線の貨物列車。決して華やかな絶景とは言えないけれど、尾道らしい、暮らしの風情を見つめることができます。
そんな浄土寺からゆるゆると歩き、久保小学校と尾道東高校の間にひそやかに続く路地を進み行けば……。
坂道の奥に、尾道商人の別荘をリノベーションした旅館『クジラ別館』がたたずんでいます。
シネマ尾道とクジラ別館
クジラ別館がオープンしたのは2019年4月。そのオープンに深くたずさわった尾道唯一の映画館『シネマ尾道』副支配人の北村眞悟さんと、同じくシネマ尾道スタッフでありクジラ別館の日々の運営を担う今吉勇貴さん。
旅館と映画館、少し不思議な組み合わせですが、そこにも、尾道と映画監督との『出会い』がありました。
尾道と、映画監督の出会い
クジラ別館を企画したのは演出家の森ガキ侑大さん。監督デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』のイベントで2017年シネマ尾道を訪れました。
当時、自身の創作拠点を作りたい、そして、クリエーターの活動をサポートしたいと考えていた森ガキさん。北村さんの案内で尾道を歩くうち、様々な人たちとの出会いが重なり、クジラ別館をオープンさせることになったのです。
築約100年。尾道商人の別荘をリノベーション
クジラ別館は築約100年。1階8畳、2階8畳、ちいさなキッチンと風呂もついた一棟貸し切りの旅館です。森ガキさんの思いもあり、もともとはクリエイターたちが集い逗留できる場になれば、とリノベーションされました。
丸い柱に隣り合う2階の障子は、柱の側面に沿うように桟も丸く削られています。きめ細かな職人の技に感服です。
室内に散りばめられた意匠に見とれていると北村さんが「もとは海辺に暮らしていた商人たちが、不便な山の上にわざわざ資材を持ち込み、贅を競ったんでしょうね」と教えてくださいました。
一方でクジラ別館のリノベーションには、地元尾道などから、さまざまなクリエイターたちが参加しています。たとえば洗面台。トマト缶を並べてかなりキッチュですが、古い空間にふしぎと、しっくり。
アイデアを出せば3,000円OFF
クリエイターを支援したい、そんなクジラ別館の思いは、アイデアを提出すれば2泊目以降の宿泊料が3,000円オフになるという試みにも表れています。
これまでに国内外のお客さまが書き残していったのは町おこしや物語のプロットなど。表紙が木で作られたアイデア手帳に綴じられており、誰でも自由に閲覧できます。
これを見た人たちの、ものづくりの刺激になりますように。そんな、クジラ別館の思いがありました。
ほんものの、尾道。
素泊まりのクジラ別館。キッチンもありますがおすすめは近くにある歓楽街、新開(しんがい)をたずねること。昭和に迷い込んだような懐かしい雰囲気のお店が立ち並んでいます。
「尾道駅、商店街はやっぱり尾道の玄関口。新開にはそこでは味わえない、ほんものの尾道らしさがあるような気がします。そんな街に出てみてほしい」と北村さん。
取材をしたのは11月の終わり。16時半過ぎに、その日最後の日差しが浄土寺山に消えていくのがクジラ別館から見えました。あと少ししたら新開の、店々の明かりも灯り始めるでしょう。
クジラ別館を実際に利用するのは、家族やカップルも多いとか。こんなふうに景色を眺め意匠を味わい街を楽しむには、一泊では少しもったいない……。暮らすように逗留したくなる場所、それが尾道・クジラ別館です。
クジラ別館
住所/広島県尾道市東久保町12-11
アクセス/JR尾道駅より徒歩25分
電話/080-3175-8779
各種お問合せフォーム
お問合せメール kujirabekkan@gmail.com
https://kujirabekkan.com
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Instagram @kujira.bekkan
瀬戸内Finderフォトライター 増田 薫
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この記事を取材したフォトライター
増田 薫
愛知県岡崎市出身。ライター/詩人。 詩とエッセイのワークショップ『ほし紡ぎ/https://hoshitsumugi.wordpress.com/』運営。 東京、神奈川での学生/社会人生活を経て、夫と息子、家族3人で四国へ引っ越し10年目になりました。愛媛県の島々を中心に、地元に息づくとっておきのスポットをひとつひとつ丁寧にレポートさせていただきます。 愛媛、素敵なところです。どうぞいらしてくださいね。
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