西日本最大規模を誇る『兵庫県立美術館』の魅力は、充実したコレクション展や特別展だけではありません。海際に作り上げられた建物と空間そのものが安藤忠雄氏設計による生きた芸術作品です。
『世界のANDO』の軌跡とこれから
2019年5月には、新たに安藤氏が設計した第2展示棟(Ando Gallery)がオープンしました。
上の写真で言えば、東側(手前)2つの大ひさしの隙間に新たな2層の展示空間が生まれたことになります。その名も『Ando Gallery』。なんと、観覧料は無料です。
2階ではまず、兵庫県下での安藤建築と、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災後に安藤氏が手がけた復興・再生プロジェクトが紹介されています。
六甲山麓の60度もの勾配を持つ急斜面に作られた『六甲の集合住宅』もそのひとつ。
安藤氏の原点となった作品のコーナーでは、大阪の『住吉の長屋』や十字の切り込みから日光が差し込む『光の教会』がコンクリート模型やパネルで紹介されています。
階段を上ると、建築やデザイン関連の本が壁一面にびっしり詰まった書棚が目に飛び込んできます。本好きの人にとっては夢のような眺めです。
3階部分のテーマは国内外の最新プロジェクトで、直島からヨーロッパまで安藤氏が各地で精力的に活動していることが分かります。イタリアのヴェニスで、歴史的な税関の建物を現代美術館に生まれ変わらせた『プンタ・デラ・ドガーナ』の模型もあります。
Ando Galleryの3階から海を振り返ると、『海のデッキ』に大きな青いリンゴの実がころんと見え、来館者の興味が刺激されます。『青りんご』の屋外オブジェは詩人サムエル・ウルマンの『青春』という詩をモチーフに安藤忠雄氏がデザインしたもの。
「あそこにはどうやったら行けるのかな?」
好奇心に導かれ、来館者は自然と海のデッキへと向かいます。第2展示棟の建設により、施設全体の人の流れが変わり、動きが生まれたといいます。
安藤建築を味わう “回遊式” 美術館
震災からの『文化の復興』のシンボルとして2002年に開館した兵庫県立美術館は、まるで巨大な迷路のよう。さまよい歩き、階段を上り下りしているうちに安藤建築の魅力に次々とぶち当たる。そして海の美しさ、山の美しさが垣間見える。たとえ展示室に入って絵画を観なくても、館内の無料エリアを歩いているだけでそんな贅沢が味わえます(建築おすすめスポットはこちら)。
意外かもしれませんが、どんよりと雲が垂れ込めた日に兵庫県立美術館を訪れると、渋くてかっこいいのでおすすめです。ニュートラルな曇り空がコンクリートの壁や階段とひと続きに空間を作り上げているようです。
もちろん、晴れた日には真っ青な空、きらめく水面、眩しい光、その光が作り出す黒々とした影が際立って、美しいのは言うまでもないんですけれど。
目当ての展覧会を目指して気持ちの高ぶりを感じながらのぼった階段を、展覧会がない日はANDO建築に注ぐ光の量や位置に注目して再び眺めてみる。そんな美術館の楽しみ方も、ここなら大ありです。
瀬戸内Finderフォトライター 堀まどか
兵庫県立美術館 第2展示棟(Ando Gallery)
住所/兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目1-1
電話/078-262-0901
最寄駅/阪神電鉄岩屋駅、JR灘駅
駐車場/地下駐車場80台(有料)
観覧時間/10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日/月曜日(祝休日の場合は翌日)、年末年始
観覧料/無料(コレクション展・特別展の観覧は有料)
https://www.artm.pref.hyogo.jp JR灘駅までのアクセスはコチラ
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この記事を取材したフォトライター
堀 まどか
堀 まどか/フォトライター 兵庫県生まれ、在住。実務翻訳、外国人起業家支援、通訳案内士(英語)、そしてフォトライター。 ネットマーケティングの外資系スタートアップで進行管理や顧客サポートを担当。 2011年から、フジサンケイビジネスアイ掲載の週刊コラム『ITビジネス最前線』を英日翻訳しています。 日常の風景や旅先で出会った人の表情など、心に触れるものを写真におさめています。瀬戸内のスポット、暮らしぶり、季節感、食を私目線で切り取ります。 写真ブログ http://riderv328.tumblr.com ツイッター https://twitter.com/Riderv328
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