江戸時代からつづく白壁の町並みにポッポッと灯る赤いちょうちん。
よくよく見ると、金魚のカタチをしています。
ここ山口県柳井市の郷土民芸品「金魚ちょうちん」です。
金魚ちょうちんの誕生はおよそ150年前。
まだ白壁の町が現役だった頃、柳井の染色職人が青森のねぶたをヒントに作ったと言われています。
もともとはお盆が近づくと大人が子どもに作ってあげたもの。
先祖の迎え火として、子どもたちが金魚ちょうちんを片手に白壁の町を練りあるく。
そんな光景が夏の風物詩でした。
この伝統はいったん途絶えたものの戦後になって復活。
その立役者が河村信男(かわむらのぶお)さんです。
「柳井を金魚ちょうちんの町にしたい」。
信男さんが妻の政枝(まさえ)さんにそう語ったのは約40年前のこと。
「子ども、家庭のことはお前に任せるからと。一度決めたら曲げない人でしたから”ええですよ”と言うしかないでしょ(笑)」。
信男さんはそれから寝る間を惜しんで製作に没頭。
それが山口県の二大郷土民芸品に選ばれるまでに人気を博し、いつしか柳井は「金魚ちょうちんの町」と言われるようになりました。
信男さんは2年前、享年84歳で他界。
しばらくして、政枝さんは「工房を作りたい」と二人の息子に告白します。
金魚ちょうちんの工房を持つこと。それが信男さんの生前の夢だったからです。
しかし、大きな難題がのしかかります。
金魚ちょうちんに関することで残っていたのは一枚のメモだけ。
再現するにも具体的なことが一切分かりません。
「職人気質で無口。余計なことを一切言わなかった人でしたから。幸いだったのは、兄が父の作る姿を映像に撮っていたことでした」。
そう話すのは母の思いを受け取り、後継者になることを決めた次男の秀昭(ひであき)さん。
映像を穴があくほど見返し、亡き父の技を1つ1つ盗みながら試作を繰り返しました。
2013年8月、念願の「河村信男工房」がオープン!
子どもからお年寄りまで、みんなが楽しみながら金魚ちょうちんを作る。
そうして作られた金魚たちが町を染めて柳井が元気になる。
それが信男さんの願いでした。
毎年お盆が近づくと、柳井の町は真っ赤に染まります。河村家は家族総出で大わらわ。
約2000個の金魚ちょうちんが灯る柳井最大の夏祭り『柳井金魚ちょうちん祭り』の準備のためです。
工房に貼られた信男さんが残した唯一のメモ。
そして母子でつないだ伝統の技と思いが、今も柳井の町を元気にしているのです。
瀬戸内Finderフォトライター 藤本雅史
【おいでませ!山口】
本家 柳井の金魚ちょうちん「河村信男工房」
住所/山口県柳井市柳井津字古市495-1
※国の伝統的建造物群保存地区「白壁の町並み」の一角にあります。
営業時間/11:00〜16:00
定休日/金
TEL/0820-22-5956
※金魚ちょうちん製作体験はお一人1,080円(5号サイズ)
『柳井金魚ちょうちん祭り』HP
http://www.city-yanai.jp/site/kanko/kingyomatsuri.html
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