「ブオォオォ〜オゥオゥ〜〜」
2月11日、まだ夜が明けたばかりの早朝。
勇ましい法螺貝(ほらがい)の音を合図に、数十人の男たちが一斉に大きな鉾(ほこ)を起こし立てます。
大きな鉾は「神明(しんめい)」と呼ばれる御神体。
高さにして、およそ20メートル。
高台から見下ろすとそのスケールが感じられます。
海沿いに佇む村が、祭りの舞台「阿月(あつき)」です。
普段はいたってのどかな集落ですが、この日ばかりは違った顔を見せます。
昼夜、槍や刀を巧みに使った武者踊りが繰り広げられ……
神明に火が放たれると、火龍昇天の勢いで天高く燃え上がります。
違った顔を見せるのは、祭りの参加者にとどまりません。
火柱となった神明は祭りも最高潮、海に向かって一気に引き倒されます。
ドォオオオオ!とものすごい衝撃とともに崩れ落ちると、まだ燃え盛る火柱に向かって見物客がワッと走り出します。
始まったのは神明についた飾りや神帯などの壮絶な奪い合いです。
勝手の分からぬ者はポカンと取り残されます。
祭りの名は「阿月神明祭(あつきしんめいまつり)」。
今から370年前に、浦という姓の海賊衆がはじめた火祭りです。
神明は村を二分して東西の浜に立てられ、両者は敵対し、“より早く!より高く!”を競い合います。
かつて喧嘩やトラブルは日常茶飯事。高さは30メートル以上あったそうです。
その気風は今も脈々と受け継がれています。
横たわる神明に見物客が群がる姿はまさに海賊そのもの!
最大の獲物は「カニ!カニ!」と口々に叫ぶ、飾りの1つで四角い箱のようなもの。
たいそうなご利益があるそうで、私が駆け寄ったときはすでにモヌケの殻でした。
阿月神明祭は瀬戸内で猛威を奮った海賊がはじめた火祭りです。
それを忘れてはいつまでたってもカニを手にすることはできません。私のように。
ご注意あれ!
【おいでませ!山口】
●阿月神明祭(国の重要無形民俗文化財)
『左義長』という宮中の行事が民間に伝えられた俗称「どんど」と神明信仰、そこに小早川家の軍神祭が習合した祭事。浦氏が阿月の領主となった1644年から始まったとされる。祭りは神明の「起こし立て」に始まり、「神明踊り(武者踊り)」を挟み、「ハヤス(燃やす)」ことで終わる。
日時/毎年2月11日 8時00分~20時30分
場所/阿月東西神明宮前(柳井市阿月)
URL/http://www.city-yanai.jp/site/kanko/atsukishimmei.html
瀬戸内Finderフォトライター 藤本雅史
この記事が役に立ったらいいね!してね
関連キーワード
関連記事
Hashtags
旬のキーワード