酒どころ兵庫には、神戸市灘区から西宮市にかけて、全国的にも有名な『灘五郷』があります。この東の『灘』に対して、かつて『西灘』と称された酒どころがあったことをご存知ですか?
『西灘』とは、明石市の西部にある江井ヶ島地区のこと。明石海峡や淡路島を一望する、波静かな漁港のまちは、知る人ぞ知る酒造りのまちでもあるのです。
ここに全国でも数少ない、昔ながらの技術や道具を使った手作りの酒造りにこだわる蔵があります。
『淡麗辛口に反旗を翻す』を信条に、飲みごたえのある濃醇辛口な日本酒を醸す江戸末期創業の酒蔵、太陽酒造。毎年酒造りが一段落するこの時期に、週末限定で新酒の試飲会を開催し、多くのファンが詰めかけます。
試飲会の前には、6代目田中忍社長による20分程度の酒蔵見学があります。
「弊蔵は、年間醸造量約100石。一升瓶で一万本足らずを醸す小さな酒蔵です。完全無添加、無加水、無濾過の純米原酒を手作りで醸造しています。向こうから買いに来てくれる酒を造ろうと思ってやっています」と田中社長。
「昔、親父がお客さんに、どうやったらうまい酒ができるのかと聞かれ、『そんなもん簡単なことや。儲からんよう、儲からんように作ったらええ。要は、できるだけ高い米を仕入れて、できるだけたくさん米を削って、それを低い温度でなるべく長い時間をかけて作ったらうまい酒ができるんや』と言うてましたが、そんなことをしとるから、ここは何度も廃業の危機に見舞われてます」。田中社長の軽妙な語りが参加者の笑いを誘います。
ボイラーで酒米を蒸すのが主流の中、この蔵では直火バーナーで酒米を蒸す甑(こしき)を使っています。そして、昔ながらの木の酒槽(さかふね)ですべてのもろみを機械ではなく、人力で搾ります。十分に搾りきれないからこそ、雑味のないまろやかな味に仕上がるのです。
こうしてできあがった華やかな香りをまとう濃厚な日本酒が、ずらりと並ぶ一升瓶にひとつひとつ手作業で瓶詰めされ、新酒を楽しみにする人たちの元に届けられます。
酒蔵見学のあとは、お待ちかねの試飲会。青空の下、酒箱を並べて木の板をのせた簡易テーブルの上には、新酒と名物の粕汁をはじめ、手作りの惣菜や漬物、刺身などが並びます。
まずは、蔵の特徴が良く出た、純米無濾過生原酒『たれくち』から。兵庫県産山田錦を原料に、しぼりたての上澄み部分をとりだした、重厚かつキレのよい日本酒です。どんな料理にも負けない力強さが感じられます。
純米もろみを木の酒槽でじっくりと時間をかけて搾った酒粕はフルーティーな吟醸香とクリームのような濃厚さが特徴。この極上の酒粕で作る粕汁は、酒の旨みがたっぷりと含まれており、お代わりしたくなるほどの美味しさ。
秘伝のタレに漬けた親鳥を炭火で焼き、ポン酢とごまにつけ込んだ香ばしい味わいが人気の播州名物『ひねぽん』や豪華な刺身盛り(または寿司)も用意されています。
偶然隣り合わせた名前も知らない人とも、お酒をつぎ合ううちにいつの間にか仲良しに。日本酒談議に花が咲きます。
日本酒を愛する人、とりわけこの蔵が醸す濃厚辛口の酒に惚れ込んだファンが集い、ざっくばらんに新酒を堪能できるのがこの試飲会の魅力ではないでしょうか。
今年の新酒試飲会は3月末までの開催。麹が香る小さな酒蔵のパワフルでダイナミックな酒造りをのぞいてみませんか。
■太陽酒造株式会社
住所/兵庫県明石市大久保町江井島789
TEL/078-946-1153
営業時間/9:00~18:00
定休日/年中無休
アクセス/山陽電鉄江井ヶ島駅より南へ徒歩5分
HP/http://taiyoshuzo.sunnyday.jp/
【有料新酒試飲会】
期間/3月末までの土日祝
時間/開始13:00、終了15:00
定員/70名
持ち物/箸
要予約。料金はコース内容によって変わります。詳細はお問い合わせください。
※5月からは毎週金曜日と月末最終土曜日の18:00から夏季有料試飲会を開催予定。詳細はお問い合わせください。
瀬戸内Finder編集部
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